oyabaka essay

僕たちのトイレ戦争 2

僕たち腸が弱い中学生は、トイレに関係なく何時も行動を共にするようになった。
僕は成松の事をナリと呼び、ナリは僕の事をふるさんと呼んだ。
ナリは卓球部だった。
三年にはキャプテンとなり高校で全国大会、そして実業団に入った程のピンポン男になった。
僕は今でも思っている。彼がそこまで強かったのは、相手の戦意を喪失させる風貌のせいだったのでは無いかと。

ナリの顔はエラが張り正方形で大きかった。そして三等身と言っても良いほどアニメ体型をしていた。
見たことは無いがきっと上から見ても四角いに違いない。
その四角い顔の中心に、顔の具材が引きつけ合うように集まっている。
眉毛が太く、ドングリ目でマツゲが煩いほど長い。
そしてふっくらした唇が常時濡れていて顎が割れている。
声は濁声なのに何故か甲高く、驚くほど下品に笑うが、日頃からニコニコしているので、何処か憎めない不思議な男だった。

そんなナリがひとたび卓球台の前に立つと、妖気に似た異様な存在感を醸し出した。
ピンポン玉を手のひらに乗せて、尻を突き出し前かがみで太い眉毛を逆ハの字にする。
四角い顔が丸いピンポンを睨み付ける。
妖艶な静寂の後、巻き込まれたら大怪我をする工業機械の動きへと変貌した。
それがナリだった。

「ふるさん、合い言葉を決めようや」ナリが濁声でそういった。
どうやら学校で大便をする二人だけの秘密結社を楽しんでいるようだった。

「なにそれ、なんで?」

「だってあれやん。クラスが違うから作戦決行の時誘いに行かんといけんやんか。おれが廊下から"ポニダ"って言ったら、出てきてよ」僕はその時はポニダの意味が分からなかったが、どうせ意味が無いと思って聞き流した。

高校に入ってナリに聞いて知ったのだが、ポニはこどもの頃よく使っていた言葉、「ポンコ」で、糞の事だった。それの断定口調がポニダらしい。そうして僕たちのポニ団は、毎日精力的にポニ活動を遂行して行った。

 ある日の昼休み、廊下から震える小さな声がした。

「ポニダ・・・」

僕ははっとした。ナリは三時間目の終わりにポニを済ませている。もしかして腹の調子でも悪いのだろうか。

「ポニダ・・・」

それはナリの特徴のある声では無かった。僕は急いで廊下に飛び出した。声の主は隣のクラスの男だった。後ろでナリがニヤニヤして立っていた。

「ポニダ・・・」彼は恥ずかしそうにもう一度言った。

「ニシダ・・・」と僕は彼の名前を言った。

「ふるさんナイス!」とナリが下品に笑った。それを遮るように西田が叫んだ

「ごめん、時間がない!」

「ナリ、西田から離れて1番に誘導!俺は先に行って現地待機!」

「ポニダー!」ナリが叫ぶと同時に僕たちは走り出した。

西田が壁に手乗せながらゆっくり歩み出した。
こうしてポニ団会員ナンバー3番、西田が加わった。

つづく。

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