oyabaka essay

僕たちのトイレ戦争 4

 西田が僕に向かって叫んだ「ナリが危ない!」という言葉のせいで、もしかすると僕は、青春の絶頂期にいるのではないかという想いが沸き上がっていた。
 男の友情・絆・正義。日頃頭に浮かばない言葉が、僕の頭の中でリピートしていた。男の友情・絆・正義・秘密・・・秘密?・・・秘密、そうだ、僕等ポニ団は、秘密裏に事を成し遂げる為に手を組んだ秘密結社だ。例えナリがどういう状況(トイレで土下座か、顔を腫らして大の字)であっても、僕や西田が駆けつけてしまうと、ポニ団の正体を明かしてしまうことにならないだろうか・・・。
 いや、大丈夫だ。ぼくたちは友達だ。友達イコールトイレの見張りとは限らない。すぐにはそうは思わないはずだ。とにかく行ってみよう。行って何がナリの身に起こっているのか、この目で確かめよう。どうするかはその場で判断すればいい。そんな事を考えながら、ぼくと西田は階段を二段飛ばしで駆け上がった。
 西田は笑っていた。それにつられて僕も笑った。トイレの床に大の字になって寝ているナリの姿をを想像しながら、「待ってろよナリ!」と、心の中で叫び笑い、僕と西田は階段を駆け昇った。そして僕は三階のトイレの前をダッシュで通り過ぎた。チラリと横目で確認した所、とてもまずい状況が一瞬で確認できた。西田が僕に続いてトイレを通りすぎようとした時、ナリの叫び声がした。
「にしだぁぁぁ」
西田は僕を通り過ぎて後ろにまわり、ぼくの背中をトイレの方に向かって突き飛ばした。僕はよろけた身体を立て直し、ぐっと足を踏ん張って両手を握りしめて、トイレの天井に向かって叫んだ。
「なり〜」
確かに叫んだつもりだったが、実際は宿題を忘れて担任が呆れて名前を呼ぶ、あの感じの声になってしまった。恐怖で全身から力が抜けてしまっていた。
 ナリは五人の男に囲まれていた。そして、化粧を落としたうちの母ちゃんの様な眉毛をして、キバ(剃り込み)をドス込みすぎて、剃った先端が頭頂部でつながっている男に、胸ぐらを掴まれていた。ナリは軽く持ち上げられて、つま先立ちになっていた。いや、完全に上靴の裏が天井を向いているくらいに身体が反れていた。きっと数発殴られた後に違いない。
男のキバは横から見ると般若の角のようだった。
男の名は「マルコ」。
マルコは振り向くというより、頭を斜め後ろに倒す感じで僕の方を見て、カミソリで切ったような目で睨みながら言った。
「゛な〜〜?」
マルコのキバは横から見ると般若の角に見えるが、正面から見ると、ジャルのロゴマークのようにも見えた。
「゛な〜?・・・何かお前、゛な〜?」首が何処かの県の民芸品の様にプリプリ揺れていた。
「いやなんもないけど、どうしたんかと思って・・」
「こいつがワシのアソコ覗き込んで口笛ふいたんじゃー。どういう意味か、教えて下さい言うとるんじゃ、おおお〜?」と、マルコが叫ぶと、大きなキバは一気に赤くなり、赤いツルが姿を表した。
 これは友情とか絆とかポ二団とか以前に、どうひいき目で見ても完全にナリが悪い。なのにナリは口に入っていないガムを噛みながら、不敵な笑みを浮かべているし、これはかなりまずいぞ。喧嘩になったらナリは戦力外だし、西田入れて三対五じゃ勝ち目が・・・(えええ〜?)振り向くとそにに、ポケットに手を入れて斜に構え、首をブリブリ揺らしている西田がいた。
つづく

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