oyabaka essay

僕たちのトイレ戦争 5

マルコと僕は同じ小学校だった。すごく仲が良かったわけではないが、マルコとは同じサッカー少年団で汗を流した仲だった。あの頃のマルコは、富士額で温和な優しいヤツだった。今トイレで眉をしかめている男達の中で、僕とナリだけがそれを知っていた。ナリもまた、マルコと同じボールを追いかけた仲だった。それに、今回の件に関しては僕達が悪い。ナリが謝るのが一番筋が通る話しだが、ナリは口に入っていないガムを噛みながら、ニヤニヤしている。マルコがナリを一発殴って、それで終わりにして欲しかった。それでもマルコがナリに手を出さないのは、ナリの気持ちが何となく分かっていたからかも知れない。
「お前、変わっちまったな」ナリがマルコのアソコを覗きこんだのは、ナリなりの親しみを込めたコミュニケーションだったのだと思う。マルコの怒りの矛先は、小学校が違う西田へと向かった。
「なんじゃこら〜、やるんかハゲ」マルコはナリの胸ぐらの手を解き、こっちにゆっくり向かってきた。
「お〜、やったれや!」西田が知らない土地の方言で誰かに指示を出した。そして西田と僕とマルコの順番でタテに並び、僕は一歩も動いていないのに、二人の間に割って入る形になっしまった。
西田が僕の後頭部に向かって叫んだ「かかってこいや!」と。
マルコが僕に殴りかかろうとしてきた。僕はマルコの両手首をつかみ、体を90度回転させて、廊下に向かって思いっきり押し進んだ。そして廊下を押し進みながら、マルコにしか聞こえない声でマルコにひたすら謝った。
「マルコごめん、マルコごめん、マルコごめん、ナリが悪い、あいつが全面的に悪い、俺がよう言うとくから、マルコごめん、マルコごめん、マルコごめん、許してマルコ、ほんとうにごめんなさい、マルコごめん・・・・」マルコは押し返して来ずに、ゆっくり後ろ歩きをしながら、小さな声で愛の手を入れて来た。
「マルコごめん、本当にごめん」
「ああ、うん」
「ナリが悪い、マ〜ルコごめん」
「うん、ああ」
「あいつが悪い、マル〜コが正しい、マ〜ルコごめんマルマルごめん、ほんとにごめん」
「もうええわ!分かったから手を離してくれ」と言ってマルコが立ち止まった。マルコはあの頃の優しい目をしていた。そして少し笑いながら、
「あいつによう言うとってや、次はないって」と言って、トイレの入口で傍観していた子分たち向かって叫んだ。
「あう、行くぞ」
「なんでよ、マルコ」納得がいかない子分がそう言うと、
「アホは相手せんのじゃ、行こうぜ」と言って踵を返して立ち去った。休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く中、ナリが僕の横に立って「マルコ、変わったのう」と、ため息に似た声で言った。ぼくはナリの顔を見ずに「いいや、変わってなかったぞ」と言った。「ナリ〜、ふるさ〜ん」弱々しい西田の声が聞こえて来た。振り向くと西田はトイレの入口で足を交差させて、手招きをしていた。その姿を見てナリが言った。
「ふるさん、西田がポニやて」

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