oyabaka essay

Sの真実

 小4の息子が、仲間とチームを作ったと言い出した。「何をするチームか」と尋ねると、息子は「何をするかは会議で決める」と答えた。
「お前は一匹狼の気楽さを知らないのか。グループを作ると何かと面倒な事が起きるんやぞ」
「お父さんが子供の頃は一匹狼やったん?」
「お父さんもチームとか作ったけど、すぐに一匹狼になったわ」
「喧嘩したん?」
「リーダーが無茶苦茶で、すぐに解散したっちゃ。ええか、リーダーだけにはなるなよ。」
「わかった。」

 小学校4年生の夏、駄菓子屋の軒先に並んでいるコインゲームで遊んでいたら、大が何かを食べなからこちらに向かってくる姿が見えた。僕たちは何時何分という約束はしない。ここに来れば自然と仲間が揃うようになっていた。
「ほら、がきデカの五巻」大は挨拶もなしに頼んでもいない新刊を僕に差し出した。目を細めて四角い板切れを下の歯で削っていた。
「かまぼこ?」
「かまぼこ」
 僕は大から本を受け取り「帰さんでええか?」と言うと、大はかまぼこ板から口を離して「全部返せ。一巻から全部」と言って、細い目をいっぱいに見開いた。大の口から、かまぼこ板の木くずがパラパラと飛んできた。
「一巻から四巻までは、今ナガレに貸しとるから、ナガレに言うて」
 僕は大から借りたがきデカを、読み終わると直ぐにナガレに回していた。僕たちは遊び仲間が四人いた。僕と大とナガレと村上。この四人は町内でも有名なワルガキ集団で、僕たちは「ポコンチ団」と名乗って常に行動を共にしていた。
 四人は揃いの帽子をかぶっていた。黄色と黒の刺繍で「S」のマークを額にあしらった白い野球帽だった。それぞれが小遣いをはたいて、スポーツ店にオーダーしたその帽子は、僕たちの絆の証だった。耳の上には団員ナンバーが記されてあり、僕の数字は言い出しっぺということで一番だった。大が二番、ナガレが三番、そして村上は四番の帽子をかぶっていた。
 村上はおぼっちゃんで何時もいい服を着ていた。勉強も出来た。帽子のマーク「S」に疑問を抱いた。村上は帽子のマークを見ながら首を傾げて、「聞いてええか、俺たちってポコンチ団よね。なんでSなん?」と言った。ナガレも帽子を脱いでマークを見た。
「ほんとじゃ、ポやないやん」と白々しくでかい声でナガレが叫んだ。以前、僕からSの由来を聞いていた大が、「お前らアホやのう。スペシャルとか、凄いとかのSやろうが」と、皆の疑問にそう答えた。
 それから数日後、僕達はキッチョに呼び出された。キッチョは背が低いが、塩浜町ソフトボールチームの、次期エースとして期待されていた男だった。キッチョは「俺のことを小さな巨人と呼べ」と、まわりに強要しいてた。キッチョ率いる塩浜の補欠軍団と、僕たちポコンチ団は、校舎二階の踊り場で睨み合った。
塩浜補欠軍団は、黒いSのワッペンがついた白い野球帽をかぶっていた。僕たちのマークは、黄色で縁取った黒いSだった。
 キッチョはポッケに手をつっこんで斜に構えて言った。
「お前ら山中町のくせに、なんでSなんか。Sは塩浜のSやろうが、それにお前、エースナンバーなんかつけやがって」。キッチョの帽子は一四番だった。大が一歩前に進んで「何が塩浜のSか。世界中のSが塩浜のSか」と嘲笑うように言った。続けてナガレが
「ふるさん、言うちゃれや」と言った。僕は頭に血が登っていた。前から威張っているキッチョの事が気に入らなかった。僕は三歩前に出てキッチョの胸ぐらを掴み、唸るように言った。
「教えたるからよう聞いとけよ。俺達のSはな〜・・・・しんやのSじゃボケ!」
「えええええええええ〜」
大とナガレと村上の絶叫がハモった。
Sは僕の名前、「しんや」のSだった。

スクリーンショット 2015-07-15 17.46.30.png


つぶやく.png
ハッシュタグ「 #oybk 」をつけてみんなでつぶやきましょう。