oyabaka essay

 再会

 息子に夏休みは何をしたいかと問いかけると、彼は「友だちと会いたい」と答えた。友だちとは保育園を卒園して以来会っていない木村君のことで、木村君は隣の校区に住んでいた。再会出来るのは街で偶然出会うか、6年後の中学校でしか叶わない。以前からどうにか会わせてやりたいと思っていた私は、夏休みのビッグな思い出として、木村君と遊ばせてやろうと決意した。
「よし、木村君の家に遊びに行こうか」
「えっ、そんなん出来るん?」
会えないことを仕方がない事だと受け入れていた息子は、目を丸くした。
妻は「電話してからの方がええんやないん」と言ったが、遊びの誘いは、玄関の前に立って、
「きぃ~むらくん、あそぼ~や♪」と、節をつけて叫ぶのが礼儀だと私は主張した。
「DS持って行ってええ?」と、息子は早くもリッュクにお菓子を詰め込みながら言う。
「久しぶりに会うのに、ゲームは無かろう。積もる話がいっぱいあるやろう。」
「そうやね」息子は意外とすんなり聞き入れた。
「電話して行きっちゃ。向こうさんも迷惑やろうし」と妻はまだこの計画のずさんさを指摘する。
「子どもが遊ぶのに、向こうさんの都合とか関係ないやろう。ただ誘いに行って駄目やったら今日は駄目って断られるだけで、俺が子どもの時はそんなもんやったよ」
「おらんやったらどうするんよ」と息子が言う。
「遊びの誘いっつ~のは、そんなもんよ。玄関であそぼ~や♪って歌って、反応が無かったら近所の公園とか探ししに行くんよ。それでもおらんやったら帰るしかない。まあ、とりあえず行ってみようや。」かくして息子の愛しき人との再会計画が実行へと移される。
木村君の家は目星がついていた。校区外なので一人で行かせるわけには行かない。仕方なく私もついていくことにしたが、初めからそのつもりだった。子どもが友だちの家に遊びに行くのに、親がついて行く。昔しだと考えられないことだが、そうさせる時代が私には寂しくてならない。私は息子と並んで歩きながら昔を思い出していた。
中学校2年の時、親友の大作が、「マドンナに告白する決意をした」と私に打ち明けて来た。
「よし、今から家まで行って告白しようや」と、私は大作をあおった。
「突然行って、迷惑やないやろうか」不安そうに大作は言う。
「今から告白に行くから、首を洗って待っとけって、電話でもするか?」と、ちゃかすように私は言った。
「断られたらどうしょう。」
「断られんやったら、明日、学校がパニックやわ」
「お前、面白がっとるやろう。」
「違うわ。可能性がゼロやないと思うけんついて来とるんや。よう考えてみ。あの娘は学年のマドンナで、1番の美人じゃ。そんなもんに告白する無謀な馬鹿は絶対におらん。みんなが俺なんかって思って、はなから彼女候補からはずしとる。で、思うんやけど、絶対に誰からも告白された事が無い。」
大作は自分が馬鹿と言われた事にも気がつかず、首が落ちそうな程うなづいている。
「それで、それで?」
「そんでよ、私は可愛いのに何で?そう思っとるんよ。間違いない。何で誰も好きって言ってくれんのよって・・・。そこの隙間に何パーセントかの可能性があると思うんよ」
大作は私の話を噛みしめるように大きくうなづいた。そして暫く考えて「それやったら、誰でも可能性があるやん」と言った。それを聞いて私はハッとした。私は大作の顔をまじまじと見た。大作も私の顔を凝視している。私の心を探っているようだ。私はカボスのような大作の顔を見ながら、「俺の方が10パーセント高い」と思った。その気持ちを悟られないように夏の空を見ながら大作に言った。
「まあ、他の奴は告白すら考えてないやろうけん、大作以外は可能性0パーセントやわ。」
大作の勇気がうらやましかった。別に彼女なんて興味は無かったが、青春まっただ中の大作が、私よりも大人に見えて悔しかった。
大作はマドンナと公園で1時間くらい話した。そして私に「転校するけん、つきあえんって」と報告してきた。
私と大作は、ほとんど会話を交わすことなく、来た道を歩いた。

「おとっつぁん、遊べんって断られたらどうするん?」突然息子の声が飛び込んできた。
「1回、行っとかんとね。」と言って私は息子の頭をなでた。息子は歩くリズムに合わせて歌い始めた。
「きぃ~むらくん、あそぼ~や♪きぃ~むらくん、あそぼ~や♪・・・ねえねえ、何でピンポン鳴らさんの?」
「親が出て来たらめんどくさいやん。」
「え~、そんな理由~」

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