oyabaka essay
メリークリスマス
津々降り積もる大雪の夜、枕元に見ず知らずの男が立っていた。
男はぴくりともせず、僕達を見下ろすように立っていた。
1時間経ち、僕はうとうとして浅い眠りへと落ちていく。
そしてまた、気配に目が覚め、男の足を確認する。そしてまた浅い眠りへと落ちていく。
それを幾度も繰り返していると、次第に恐怖になれてきて、夢うつつの中で色々なことを考える余裕ができた。
正体は分かっている。サンタクロースだ。
24日のクリスマスイヴ、赤い靴をはいた男が、4帖の畳の部屋で寝ている僕と兄ちゃんを、気が遠くなるほどの長い間、息をころして見下ろしているのだ。
確かに、僕はよい子ではない。よい子の家にしかプレゼントを持ってこないのなら、ここで何時間も迷ってないで、次の家に行けばいいじゃないか。そもそも、僕はサンタクロースを信じていなかったし、プレゼントもお願いしてない。信じていない子どもには、サンタは見えないってお母さんは言っていた。それなのに僕の枕元にサンタが立っている。そして、僕にプレゼントをあげようかと、もう5時間くらい立ち尽くしている。僕はそんなに迷わせるくらいの悪い子なのだろうか。
また睡魔が襲ってきた。もうどうでもいい。プレゼントなんていらないから、「お願いだから帰って下さいサンタさん」。
しかし、聖夜の願いは、目の当たりのサンタには届かなかった。
やがて朝がやってきた。
サンタの正体は、赤い靴にお菓子が入ったプレゼントだった。兄ちゃんと僕の分が二足揃えて、僕の枕元に置いてあったのだ。
サンタクロースは絶対にいる。僕は声を聞いたんだ。「メリークリスマス」と囁く声を。