oyabaka essay

僕たちのトイレ戦争 1

私はとてもお腹が弱い子どもだった。
大人になって自分が牛乳アレルギーという事を偶然知ったのだが、子どもの頃は毎朝届けられる牛乳を飲んでからではないと、学校に行かせてもらえなかった。なので小学校から中学校までの九年間、毎日が便意との戦で、その戦いの一部を書こうと思う。

 当時、学校で大便をするのは、大逆罪というイメージが浸透していた。見つかれば、ドアの下から水を流されたり、ドンドンとドアを叩かれたり、恐怖の体験を受けた後に、学校中に後ろ指をさされることになる。
 そんなトイレ事情の中、僕は、ほぼ毎日のように授業中に便意を迎えた。午後なら何とか放課後まで我慢が出来たが、最悪なのは1時限目からの時だ。そんな日は地獄だった。極寒の子犬のように、一日中ぷるぷると震えるしかなかった。
次第に僕の肛門括約筋は人の何十倍にも発達した。
こんな所に筋肉がついても、将来何の役にもたたない。しかし、当時の僕にとっては、この筋肉だけが頼みの綱だった。
とにかく耐える事しか、この難問を解決する方法を知らなかったのだ。

 しかし、ある日人生を変える救世主と出会う。
神の名は成松。彼も腸が弱かった。
二人が出会ったのは校庭に面した小さなトイレだった。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る頃、小さなトイレに駆け込む成松の姿を偶然見かけた僕は、「まさか」と思った。
成松は時間にして15秒もしない内にトイレから出て来た。そうなのだ、家のトイレのように全部出し切る必要はない。それは学校での大便の仕方を熟知した男の高等技術である。
僕は戦場で友と出会った感動を覚えた。
しかし、すぐに声をかけるのはマナーに反するので、数日おいて話しかけることにした。

「話があるって、何? 」
「大したことやないんやけど、ズバリ言うの。お前、学校でウンコしよるやろ」
槍で突然刺された男のように、成松は目を見開き、口をぱくぱくさせた。返す言葉を探しているようだった。
「すまん、びっくりするな。そうやないんよ。俺も仲間に入れて欲しいんよ」
今度は死んだばあちゃんが目の前に現れたように、成松は目を見開き、口をぱくぱくさせた。
「ど、どういう事なん」
「なんか俺、もう疲れたんよ。コソコソしたり、汗かきながら我慢することに」
成松はきょとんとしている。お構いなしに話を続けた。
「ウンコとかは、誰でもするやん。松田聖子もするし、世界の王選手もするやん。なんでワシ等だけ我慢せないけんのよ」
「からかう奴がおるけんやろう」
「そんな奴、殴ったらええやないんか」
「そんなんしたら大変やわ。学校でウンコして見つかって、その相手殴ったって言ってん。伝説になるわ。ウンコ伝説やわ」と、成松は冗談の様なことを真面目な顔で言った。
「成松、チームを組む気はないか」
「チーム?チームかぁ・・・チームいいね、チーム。」成松の目が輝き始めた。
「まずは成松が今まで編み出したワザを教えてよ」と、僕が言うと、成松は良くぞ聞いてくれたと声を弾ませて語り始めた。腸が弱い男達は、時を忘れて語り合った。
そして翌日から、二人のトイレ大作戦が始まった。
つづく

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